スイスの医療保険 (2)

スイスにおける医療制度の話。前回の続き。

追加保険 (VVG)

追加保険とは、強制加入である基本保険(KVG)で保障されないリスクをカバーするための保険です。

基本保険と異なり加入は任意で、提供される内容も保険会社ごとに異なります。また保険会社は、既往歴や医師の診断書を保険料算定ならびに引受可否の判定に用いることが出来ます。基本的に罹病して入院が想定される状況では保険会社が引き受けを断るため、健康な内に加入しておく必要があります。(例外として保険会社が企業に対して団体契約プランを設定している場合、その特典の一つとして追加保険加入申請の際の診断書の提出を免除し、無条件で加入を認めるという特約が含まれていることがあります)

追加保険は商品設計の自由度が高く、各社で大きく異なるパッケージングをしているため分類が難しいのですが、追加保険でカバーされるリスクの範囲はおおよそ次のように分けられます。
  • 外来診療
  • 入院
  • 代替医療
  • 歯科治療
  • 予防医療
なお、いずれに関しても詳細は保険毎に異なります。たとえば特定の治療に関して、ある保険では保険会社8割負担(自己負担2割)で上限なし、別の保険では保険会社全額負担だが年間上限3,000CHFといった具合です。

基本保険と追加保険は同じ保険会社から購入しても、別の保険会社から購入しても構いません。ただし同一保険会社から購入した方が保険金請求手続きなどが簡単です。

外来診療

基本保険でカバーされない、次のようなリスクに対応します。

医療機関の地理的制約

緊急時を除き、基本保険で通院できる医療施設は、居住地もしくは就労地の州内にあるものに限られます。たとえ隣の州の病院に患っている病気の世界的権威がいたとしても、その医師の診察を受けると全額自己負担となります。

追加保険を購入することで、基本保険と同等の自己負担額で州外の医療機関でも受診可能となります。一般にはスイス国内の医療機関での受診のみ保険金支払い対象ですが、より高額な保険では全世界の医療機関での受診が保険金支払い対象となります。

救急搬送

緊急時に救急車などを利用して医療機関に搬送された場合、基本保険から支払われるのは5割かつ年間500CHFまでに限られます。特に近隣に救急病院がない地方では救急搬送が長距離になるため、費用が高額になりがちです。

海外での緊急治療

海外で急病や怪我をして通院した場合、基本保険からは「スイスで同等の治療を受けた場合の2倍」を限度として保険金の支払が行われます。
スイスは医療費が比較的高いため、欧州内を旅行する分には基本保険で十分対応可能ですが、米国のような医療費が高額な地域を旅行中に通院することになった場合、基本保険からの支払いでは不足します。

任意妊婦検診

妊娠した場合、基本保険では8回の検診と2回の超音波検査が保険で支払われます。超音波検査に関して、回数の上限なく一定割合が保険会社負担となります。

入院

入院に関する追加保険はリスクに対応するというより、より良い治療を受け、快適な入院生活を送るためのものです。

入院に関する追加保険は、一般に次の3レベルで提供されます。
  1. 大部屋プラン (Allgemeine)
  2. 二人部屋プラン (Halbprivat)
  3. 個室プラン (Privat)

医療機関の地理的制約

緊急時を除き、基本保険で入院できる医療施設は、居住地もしくは就労地の州内にあるものに限られます。

追加保険を購入することで、基本保険と同等の自己負担額で州外の医療機関でも入院可能となります。保険会社と提携している病院にのみ入院可能とすることで保険料を割り引いたり、スイス国内にかぎらず海外の医療機関に入院した場合でも保険料が支払われるという選択肢を提供している保険会社もあります。

病室

基本保険では、病室は治療上の必要がない限り大部屋となります。追加保険では保険の種類に応じて、二人部屋もしくは個室での入院が可能となります。

なお、これは単なる快適さの問題ではなく、入院時の待ち時間にも影響するようです。緊急ではないが手術が必要な場合、たとえば骨折後の治療が悪く骨が正しくない形でついてしまったために再手術が必要というような場合、大部屋だと3ヶ月待ちなのが個室だと2週間後に入院可能となったという事例をインターネット上で見かけました。検査機器の利用順位などに関しても、大部屋の患者より二人部屋、個室の患者が優先されるようです。

また私立病院では大部屋がなく、すべて二人部屋もしくは個室という病院もあります。このような病院では、該当するレベルの追加保険に加入していることが入院の前提条件となります。

主治医

大部屋の患者に対しては経験が浅い医師もしくは研修医、二人部屋は経験豊富な上級医、個室患者に対しては各科の長クラスが主治医となります。
なお、例えば手術の難度が高い心臓病を患っている場合などは、たとえ大部屋の患者でも執刀医はその力量がある医師が割り当てられます。

なお二人部屋、個室の追加保険に加入していない場合でも、差額を自己負担することで二人部屋もしくは個室を利用することが可能な場合があります。その場合でも保険に加入している患者が優先され、主治医として上級医が割り当てられるという特典は受けられないようです。

代替医療

基本保険でカバーされない鍼、灸、マッサージや、未承認薬に対する保険です。眼鏡に関しても一定金額まで保険から支払われるものもあります。

歯科治療

基本保険では、歯科治療に関しては健康に即座に影響があるもの以外は対象外です。たとえば虫歯の治療や、歯の詰め物がとれてしまったので付け直したいといったケースは一切保険からの支払いはありません。
なお歯科治療に関する保険は上限が低く、かつ率も悪いです。たとえば保険料が300CHF/年に対して、保険金支払いは5割で上限1,000CHF/年など。この程度であれば貯蓄でカバーした方がいいということで、加入者は少ないです。

子供の歯並びの矯正に関しても基本保険ではカバーされないため、追加保険でカバーすることになります。こちらは矯正が必要となるリスク自体は低いものの、いざ矯正を行うとなった場合の費用は高額なため、保険でカバーするという選択肢を取る親も多いです。なお矯正が必要だと判明してから保険に加入することはできないため、出生後すぐに加入して保険料を払いつつ様子を見ることになります。

予防医療

病気や怪我になってからではなく、それを未然に防ぐための活動に対して保険会社が一部費用を負担します。これは単体の保険ではなく、外来診療や入院に対する追加保険を購入すると付随してきたり、他の保険とのセットとして提供されます。

任意予防接種

代表的な伝染病に対する予防接種は基本保険でカバーされていますが、たとえば日本では国や地方自治体が費用負担する結核や日本脳炎に対する予防接種は、スイスの基本保険では対象外です。スイスにいる限り、結核や日本脳炎に罹患するリスクが十分に低いためです。
このような基本保険対象外の予防接種に関しても、一定の条件を満たすものは保険負担となります。

健康診断

日本では、雇用者は非雇用者に健康診断を受けさせる義務があるため、会社勤めをしていると毎年会社負担で健康診断を受けることになりますが、スイスでは健康診断は任意です。この費用が一部もしくは全額補助されます。

運動関係の費用

スポーツジムの年会費などに対する補助です。

保険料

任意保険に関しては保険会社毎に商品設計が大きく異なりますが、大手である Sanitas の追加保険を参考として付けておきます。

共通: 男性, 30歳, チューリッヒ市内居住, 会社勤務、病気・事故対応

入院保険

  • 大部屋プラン, スイス国内提携病院 9.6CHF/月 (1,260円/月)
  • 二人部屋,プラン スイス国内認証病院 64.9CHF/月 (8,600円/月)
  • 個室プラン, 全世界の病院 103.8CHF/月 (13,700円/月)
大部屋プランであっても、一定割合を自己負担とすることで二人部屋(自己負担2割5分、上限10,000CHF)、個室(自己負担5割、上限20,000CHF)対応の保険として医療機関側で取り扱われるようにすることが可能です。

大部屋プランの「スイス国内提携病院」はポジティブリスト方式をとっているのに対し、二人部屋プランの「スイス国内認証病院」はネガティブリスト方式をとっており、リストにあるいくつかの病院を除いては入院可能です。病院の選択肢は、入院保険種別が大部屋プラン、二人部屋プラン、個室プランとなるに従って広がります。
また大部屋プランと二人部屋プランに関しては、保険が支払われる入院日数に180日の上限が設定されていますが、個室プランは無制限です。半年以上入院するのは稀ですが、その稀な場合をこそ保険でカバーしたい(万が一長期入院となった場合に貯蓄ではカバーしきれない)ということであれば、個室プランを選択することになります。

基本的には以上ですが、他に保険料に影響がある細かい項目が設定されています。

まず免責額を設定することが可能です。たとえば二人部屋プランであっても、1,000CHFまでは自己負担とし、それ以上かかった場合のみ保険会社負担とすれば保険料を安くすることが可能です。
一般に、罹患してから追加保険に加入したり保険のカテゴリを上げる(大部屋プランから二人部屋プラン、二人部屋プランから個室プラン)ことはほぼ不可能ですが、一定額の保険料を支払うことでカテゴリ変更を保証するオプションを付けることが可能です。

また Sanitas 以外の例となりますが、出産を対象外とすることで入院保険の保険料を割り引く選択肢を提供している入院保険もあります。

外来診療、代替医療、予防医療

  • 33.2CHF/月 (4,400円/月)
Sanitas では外来診療、代替医療、予防医療はセットの保険となっており、一部のみに加入することはできません。別の保険会社、たとえば CSS ではより細かい粒度で加入することが可能です。

基本保険 (KVG) + 追加保険 (VVG) 保険料合計

チューリッヒ市内に住む健康な 30代夫婦 + 子供2人の家庭を考えると、基本保険と追加保険で毎月700CHF (92,000円) から1,200CHF (158,000円) 程度かかることになります。

最も安いモデル
免責額: 大人2,500CHF/年、子供0CHF/年
基本保険モデル: 大人 HMO, 子供 標準(制約なし)
追加保険: なし
保険料 約700CHF/月

最も保障が充実したモデル
免責額: 大人2,500CHF/年、子供0CHF/年
基本保険モデル: 標準(制約なし)
追加保険: 入院 個室プラン, 外来診療・代替医療・予防医療対応
保険料 約1,200CHF/月

月に1,200CHF=年間190万円は高額に見えますが、実は日本だと高額所得者はより多くの金額を負担しています。
東京都の政府管掌健康保険加入というケースを考えると、世帯年収1,100万円でスイスの基本保険にのみ加入した場合と同等の保険料、2,000万円で追加保険にフルセットで加入した場合と同等の保険料を納めることになります。免責額や医療費の上限に違いがあるので、単純に保険料だけでは比較できませんが。

なお日本だと納める保険料と受けられるサービスは無関係ですが、スイスだと追加保険を購入すれば受けられるサービスが良くなるため、一定以上の収入がある人にはスイスの医療システムの方が魅力的に映ると思われます。

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