2015年3月27日金曜日

スイスの所得税・住民税

スイスで会社勤めしていると給与に課税されますが、その話。

所得税・住民税の比較
支払先は連邦、州 (Kanton)、そして基礎自治体 (Gemeinde) の3者。日本でも国に払う所得税と、都道府県ならびに基礎自治体に払う住民税(都道府県民税、区市区町村民税)があるので同じ構造です。

違いに着目すると、次のようになります。
  • 納税額 (ある程度の所得がある場合)
    • 日本  国税の割合が高い
    • スイス 地方税の割合が高い
  • 住民税率
    • 日本  所得比例分の税率は一律10%(都道府県民税4%、区市町村民税6%)
    • スイス 累進課税、かつ自治体毎に税率が異なる
  • 納税単位
    • 日本  個人単位
    • スイス 夫婦単位
  • 教会税
    • 日本  なし
    • スイス キリスト教の代表的宗派に属する信徒は納税の必要あり
スイスは公式には国教を定めていませんが、政府は代表的な宗派に対して経済的援助を与えています。教会税もその一環で、税務当局が徴収後に納税者の属する宗派に分配されます。 なお教会税の納税は厳密には法的義務ではなく自発的に行われることになっていますが、教会税を支払わない場合には宗派を離脱することが求められ、教会での斎行や埋葬に影響が出るようです。(私は信徒ではないので伝聞です)
スイスでの所得税・住民税納税方法
スイスでは、納税方法が人によって異なります。給与所得者で本人もしくは配偶者がスイス国籍あるいは永住権 (C Permit) を保有している場合には確定申告、それ以外の資格 (B Permit, L Permit) で滞在している場合には源泉徴収(給与天引)となります。

源泉徴収の税率は州毎に決められた計算表があり、チューリッヒ州では収入額、家族構成ならびに教会税課税対象者かどうかで決まります。

源泉徴収の注意点ですが、住んでいる基礎自治体は考慮されません。基礎自治体毎に住民税の税率が異なるのですが、これが適用されるのは確定申告を行った場合のみで、源泉徴収ではどの基礎自治体に住んでいても、他の条件が同じであれば同額の税金が徴収されます。
また所得控除対象となる支出も個別には考慮されません。たとえば確定拠出年金に積立を行うと本来は所得から控除されるのですが、源泉徴収額は標準的なモデルケースに基づいて決められています。

なお年収 120,000 CHF を超える場合には確定申告が必須、それ以外でも本来は控除される金額が多い場合には自発的に確定申告を行うことが可能です。源泉徴収では税率は標準的なモデルケースに基づいて決められていますが、確定申告を行うと居住地や個別の収入・支出を反映して税額を再計算し、源泉徴収された額との差額が精算されます。

源泉徴収税率表の読み方
チューリッヒ州は公式 Web サイトで源泉徴収税率表を公開しています。

まず家族構成に応じて表が A, B, C と H の 4 種類あります。
  • A: 独身者
  • B: 既婚者、片親が専業主婦(夫)
  • C: 既婚者、共働き
  • H: 一人親家庭
PDF ファイルを開くと、各ページの上に Mit Kirchensteuer, Ohne Kirchensteuer と書かれています。各ページはそれぞれ次の場合に対応します。

  • Mit Kirchensteuer 教会税を支払う場合
  • Ohne Kirchensteuer 教会税を払わない場合
次に、表の各列が扶養している子供の数に対応します。

ここまでの収入以外の要因をまとめたものに、それぞれ固有のコードが振られています。たとえば既婚者・片働き (表B)、扶養子供2人 (2)、教会税支払いなし (N) だと B2N となります。あとは標準月額報酬に対応する行を見れば税率が分かるので、給与支給額に税率をかけて源泉徴収税額を求めます。
なお標準月額報酬は、年間の給与と想定される賞与額を加えた総額を12で割ったものです。

2015年の数値で計算すると、仮にB2Nの税率表(既婚者・片働き、扶養子供2名、教会税支払いなし)の適用を受ける人が年収96,000CHF(標準月額報酬CHF8,000)を得ていた場合、税率は2.71%で年間の源泉徴収税額は約2,600CHF、子供がいない B0N だと税率6.28%で源泉徴収税額は約6,030CHFとなります。

日本・スイス課税額比較
現在の為替レート (1CHF = 124円) だと年収96,000CHFは年収1,200万円に相当します。日本だと加入している健康保険などによって多少差がありますが、年収1,200万円で特に大きな控除がない場合、所得税が125万円、住民税が82万円ほど課税されます。したがって年間の所得税・住民税の合計額と実効税率を比較すると、次のようになります。
  • スイス 子供なし 約6,030CHF (約75万円), 6.28%
  • スイス 子供2人 約2,600CHF (約32万円), 2.71%
  • 日本      約207万円, 17.25%
なお、円換算した金額は為替レートによって大きく変わり、また税金に近い性格を持つ社会保障関連費用(年金積立、医療保険、失業保険など)や子ども医療費補助、子ども手当などの給付は含めていませんので、単純に比較することはできません。

また日本はスイスと比較して生活費が安いので、年収1,200万円だと生活に余裕があり担税力が十分にあると見なされるのに対し、スイスの都市圏で年収96,000CHFはそこまで高給取りとはみなされていないという違いもあります。

2015年3月22日日曜日

退職所得の選択課税

日本企業を退職して海外の企業に就職する場合に、日本企業から支給される退職金に対する税金の扱いについて。

普通に日本企業を退職して日本で退職金を受け取る場合でも退職金には所得税がかかりますが、その税額はきわめて低く抑えられています。

たとえば勤続年数10年で退職金が600万円支給された場合、退職所得控除が勤続年数10年で400万円あり、かつ課税退職所得金額は (退職金 - 退職控除) x 1/2 で計算されるため(600万円 - 400万円) x 1/2 で 100万円となります。

課税退職所得が195万円以下の場合、所得税率は5%のため、復興特別所得税 (所得税の 2.1%) を含めて最終的な課税額は51,050円となります。

参考


ただし、この計算方法が適用されるためには、退職金受け取り時に税法上の居住者である必要があります。退職金が支給される前に出国し税法上の非居住者となっていた場合には、退職金支給額の20.42%が源泉徴収されます。退職所得控除や税率の累進課税の適用は一切ありません。
たとえば退職金が600万円の場合には、源泉所得税として1,225,200円が差し引かれ4,774,800円が支払われます。

さすがに出国のタイミングで税額が大きく異なるのは不公平だということで、税務署に申告を行うことで、居住者と同様の課税ルールを適用して所得税額を再計算し、差額の還付を受けることが可能です。根拠となるのは所得税法第百七十一条です。
(退職所得についての選択課税)
第百七十一条  第百六十九条(課税標準)に規定する非居住者が第百六十一条第八号ハ(居住者として行つた勤務に基因する退職手当等)の規定に該当する退職手当等(第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等をいう。以下この節において同じ。)の支払を受ける場合には、その者は、前条の規定にかかわらず、当該退職手当等について、その支払の基因となつた退職(その年中に支払を受ける当該退職手当等が二以上ある場合には、それぞれの退職手当等の支払の基因となつた退職)を事由としてその年中に支払を受ける退職手当等の総額を居住者として受けたものとみなして、これに第三十条及び第八十九条(税率)の規定を適用するものとした場合の税額に相当する金額により所得税を課されることを選択することができる。
なお、この場合でも支給時に必ず一度は20.42%を源泉徴収されるため、支給後に税務署に申告を行う必要があります。


私は2015年1月に Google の日本オフィスからスイスオフィスに異動しましたが、手続き上はグーグル株式会社(Google の日本現地法人)を退職して Google Switzerland GmbH(グーグルのスイス現地法人)に雇用という形でした。
退職から退職金の支給までには一ヶ月強の時間差があるため、退職金支給日にはすでにスイス現地法人での勤務を開始しており、日本の税法上は非居住者でした。したがって支給される退職金からは20.42%が源泉徴収されており、徴収されすぎた所得税の還付を受けるために日本の税務署に申告を行う必要がありました。

退職所得の選択課税専用の申告書は存在しないため、自分で申告書を作成する必要があります。申告書に記載する内容については所得税法第百七十三条と所得税法施行令第七十条で規定されていますが、申告書を一から自分で作成するのは大変なので、私は下記の blog 記事を参考に確定申告書B様式に修正を加えて申告書を作成し、日本にいる納税代理人を通じて所轄税務署に郵送しました。
税務署から申告書受理の連絡は来たので、現在は還付確定連絡待ちです。


税金は、こういう知らないと損をする、あるいは知らなうちに脱税になってしまうというケースがあり、専門家の助言がないと怖いですね。特に国をまたぐ場合には。

移転します

移転先:  https://blog2.issei.org/