2020年5月15日金曜日

スイスの新型コロナウイルス感染者接触追跡アプリケーションで使われる仕組み DP-3T

スイスでも、新型コロナウイルスの感染追跡ツールとしてスマートフォンの利用が検討されています。既にアジア各国やイギリスではスマートフォンを用いた感染追跡は実用化されていますが、プライバシー保護が厳格なスイスにそのままの形で導入することは難しいため、より個人情報に配慮した DP-3T (Decentralized Privacy-Preserving Proximity Tracing; 分散型プライバシー保護接触追跡) という仕組みを考案し、Apple, Google とも協力して開発が進められています。

DP-3T の詳細インターネット上で公開されています。ホワイトペーパーを読んでみましたが、なかなか巧妙で面白い仕組みだったので、覚書を残しておきます。

経緯

DT-3T は、スイスを代表する理工系大学であるスイス連邦工科大学ローザンヌ校とチューリッヒ工科大学の共同プロジェクトとして始まり、最終的に欧州の25人の科学者・研究者の手によってまとめられました。成果物は下記サイトで公開されています。

背景

接触追跡の目的は、新型コロナウイルス感染者が判明した場合に、その人が発病した日以降に一定以上の接触があり新型コロナウイルスに感染している可能性がある人間を特定し、それ以上の感染拡大を防ぐことです。

伝統的な手法としては感染者に対する聞き取り調査があり、またアジア諸国で導入されているスマートフォンの位置情報を利用する方法もありますが、いずれも欠点があります。

聞き取り調査
  • 高度な訓練を受けた専門家の関与が必要なため、実施可能な件数が限られ、時間がかかる。
  • 感染者の記憶と自己申告に頼ることになるため、記憶が曖昧な場合や本人が申告しないケース(知られたくないお店や相手への訪問など)は追跡ができない。
位置情報を利用する方法
  • 当局がアプリケーション利用者の行動履歴を追跡できるため、プライバシー侵害の懸念がある。
  • システムに侵入された場合に、利用者の行動履歴が漏洩する。特に感染者が特定された場合のリスクが大きい。
DP-3T は専門家による聞き取り調査を置き換えるものではありませんが、それを補完する仕組みとして機能します。

仕組み

ホワイトペーパーでは低コスト分散接触追跡 (Low-cost decentralized proximity tracing) と、それを発展させた連結不能分散接触追跡 (Unlinkable decentralized proximity tracing) という二つのデザインが提示されています。とりあえず、前者のみ。

概要

短寿命識別子の処理と記録

  1. 各スマートフォンは、スマートフォン内で短寿命識別子 (ephemeral identifier, EphID) を生成し、それを一定間隔で周囲に送信する。
    • この EphID は頻繁に変更されるため、受信者が送信者を特定・追跡するためには使えない。
    • EphID の送信には Bluetooth Low Energy (BLE) という規格を用いる。これは短距離通信のための規格なので、受信するためには物理的に送信者の近くにいる必要がある。
  2. EphID を受け取ったスマートフォンは、EphID とおおよその受信時刻、ならびに受信していた期間を記録しておく。

感染者情報の登録と接触者への通知

  1. 患者が新型コロナウイルスに感染していることが判明した場合、感染者は保健当局の承認を得て、感染していた期間に送信した EphID の圧縮表記 (compact representation) をサーバーに登録する。
    • compact representation は複数の EphID を圧縮してまとめたもので(詳細は後述)、受信者は compact representation から EphID を計算で求めることができる。
  2. 他のスマートフォンは定期的にサーバーから感染者の compact representation を受信し、それから感染者が過去に送信した EphID を計算する。
  3. 以前に受信・保存していた EphID と感染者が送信した EphID が一致していた場合、そのスマートフォンは感染者のスマートフォンと過去に近接していたことになる。近接していた期間・距離などから感染リスクを計算し、感染リスクが高い場合にはスマートフォンに通知を表示する。

詳細

初期設定

スマートフォンでは、毎日、そのスマートフォン固有の秘密鍵を生成する。t を分散型接触追跡システム全体で共有された基準日からの経過日数、その日のスマートフォン固有の鍵を SKt と表記する。(この SKt が概要で挙げた compact representation に相当)

スマートフォンに接触追跡アプリケーションをインストールすると、スマートフォンはランダムに最初の SKt の値を決める。この値はスマートフォン内に記録され、この時点では誰とも共有されない。

短寿命識別子の生成

スマートフォンは接触者を漏れ無く記録するため、可能な限り多くの EphID を受信・記録できる必要がある。

したがって同時接続数に上限がある接続型の通信を使うことはできず、非接続型の Bluetooth Low Energy ビーコン機能を利用する。Bluetooth Low Energy ビーコンの技術的制約により、EphID のサイズは 16 バイトとなる。

まずスマートフォンは、毎日、秘密鍵を変更する。H を暗号学的ハッシュ関数とし、基準日から t 日目のカギは前日の秘密鍵 SKt-1 から次のように求める。

SKt = H(SKt-1)

なお暗号学的ハッシュ関数の性質上、
  1. SKt-1 から SKt を計算するのは簡単だが、逆は難しい。
  2. SKt は固定長
ということが保証される。

同一の単寿命識別子を長時間送信すると、その識別子を用いて送信者を追跡することが可能になるため、スマートフォンは頻繁に単寿命識別子を変更する必要がある。同一の単寿命識別子を送信する時間を l 分とする(システム全体で共有する設定値)。

毎日の開始時に、スマートフォンはデバイス内で n = (24 * 60) / l 個の単寿命識別子を、下記の式に従って計算する。

EphID1 || EphID2 || ... EphIDn = RPG(RPF(SKt, "broadcast key"))

左辺の || は文字列の連結。言い換えると、右辺の出力結果を 16 バイト単位で切り出して、順に EphID1, EphID2, ... とするという意味。
  • RPF: 擬似乱数関数(HMAC-SHA256など)
    • スマートフォンのみが知っている暗号鍵 SKt を初期値(シード)とし、公開された文字列のハッシュ値を計算する。
  • PRG: ストリーム暗号 (AES-CTR モードなど)
    • 上記の擬似乱数関数の出力を秘密鍵として、n*16バイトのデータを生成。
    • 注記:RPG はストリーム暗号とあるが、ここでは暗号化ではなく任意長の乱数生成が目的なので、暗号化する平文は存在しない。たとえば平文とノンスは全ビット0の固定値として構わない。
  • "broadcast key": システム全体で共有される公開固定文字列
ここでも SKt が分かっていれば EphID を計算するのは容易だが、逆に EphID から SKt を計算するのは難しい。

スマートフォンは、こうして生成した EphID1, EphID2, ... をランダムな順番で、それぞれ l 分ずつ送信する。

受信した単寿命識別子と、生成した秘密鍵 SKt の記録

スマートフォンは、受信した単寿命識別子を、近接度合(信号強度)、時間(長さ)、ならびにおおよその時刻(例:4月2日)と共にスマートフォン内部に一定期間保存しておく。同時に、スマートフォンは生成した秘密鍵 SKt もスマートフォン内部に14日間保存しておく。

保存期間は保健当局のガイダンスによって定められ、システム全体での設定項目として扱われる。

分散型接触追跡

このプロセスの参加者
  1. 感染者のスマートフォン
  2. 他のユーザのスマートフォン
  3. サーバー
  4. 保健当局
サーバーは通信の媒介者としてのみ機能し、一切のデータ処理を行わない。

保健当局は感染者に検査結果を伝えるとともに、感染者がサーバーにデータをアップロードすることを許可し、また伝染条件(感染者と何メートル以内に何分いたら感染リスクが有ると見なすか)を決定する。また疫学者が、発症何日前から他人に(無症状でありながら)感染させる可能性があるかを推定する。

感染者は、他人に感染させた可能性がある最初の日に自身のスマートフォンが用いた秘密鍵 SKt と、その日 t の組 (SKt, t) をサーバーにアップロードする。なお、この時点で用いていた SKt は破棄し、再度、初期設定からやり直す。

サーバーは、分散型接触追跡アプリケーションをインストールしている全てのスマートフォンに、定期的に感染者が用いていた (SKt, t) の組を送信する。

受信したスマートフォンは (SKt, t) の組から、感染者が送信した可能性がある単寿命識別子を計算し、過去に受信して記録してあるデータと照合する。もし過去に受信したデータに含まれていた場合、アプリケーションは記録してある近接度合い、時間から感染リスクを計算し、感染の可能性が高い場合には、スマートフォンに通知を表示する。

感想

プライバシー

プライバシーに対する配慮が、良くなされていると思います。

新型コロナウイルスに感染していることが判明した場合、当然ながら、検査を行った医師や届け出を受けた保健当局は感染者の情報を知ることができます。しかし、感染者の行動履歴は当局も知ることができません (*1)。
その他のユーザについても行動履歴が当局に知られることはなく、また感染者と濃厚接触が合ったと判明した場合でも、その事実が分かるのはスマートフォンから通知を受けた本人だけです。第三者が知ることはできません。

これに対して、スマートフォンが位置情報を政府機関に定期的に報告し、政府機関の方で近い位置にあったデバイスを突き合わせる方式だと、利用者の行動を政府機関が完全に把握できることになります。

(*1) 厳密には、資金力と高度な技術力がある組織が Bluetooth Low Energy ビーコンの情報を多数の箇所で収集した場合、秘密鍵 SKt が公開された時点で遡って感染者の行動履歴を追跡できる可能性があります。この点を改善する連結不能分散接触追跡 (Unlinkable decentralized proximity tracing) という方法も、ホワイトペーパー中で議論されています。

追跡の完全性

またシステムが限りなく自動化されており、利用者が手作業で行う作業が少ないのも利点です。ビルに入退出するたびに、そこにある 2D バーコードをスキャンするようなシステムも考えられますが、これだと面倒ですし、うっかり忘れたりする可能性も高い。そうなると、追跡に漏れが出てきます。

システム負荷

Bluetooth Low Energy ビーコン規格を使うことで、スマートフォンのバッテリー消費電力への影響を小さく抑えています。

またサーバーを介してやり取りされる情報が、極めて小さく抑えられています。

ユーザ同士が接触した際にスマートフォン間でやり取りされる情報は短寿命識別子ですが、感染者が出た場合にサーバー経由でやりとりされる情報は、その感染者が「他人に感染させた可能性がある最初の日」に用いていた秘密鍵と日の組 (SKt, t) 1 つだけです。

ある日に用いていた秘密鍵 SKt が分かれば、

SKt = H(SKt-1)
という計算を行うことで、その日以降の秘密鍵 SKt は全て求めることができ、さらに SKt が分かれば、感染者のスマートフォンが送信した単寿命識別子も

EphID1 || EphID2 || ... EphIDn = RPG(RPF(SKt, "broadcast key"))

として全て計算できるため、全ての単寿命識別子をサーバー経由でやりとりする必要がありません。

2020年5月8日金曜日

スイスにおける新型コロナウィルス対策

スイスは欧州では比較的早い時期に新型コロナウィルスの感染が拡大し、段階的に行動制限が強化されてきましたが、3月中旬から新規感染者数の減少傾向が明確になり、今後は制限を徐々に解除していく方向に向かっています。この機会に感染拡大からの経緯を振り返り、記録に残しておきたいと思います。

なお私は疫病対策や感染症の専門家ではなく、スイスのチューリッヒ州に家族とともに住む一個人です。記録は俯瞰的なものではなく、自身の関わる範囲で経験した内容に限られます。

時系列

2月末〜3月上旬

2月中頃までは、新型コロナウィルスはアジアの遠くの地域での感染症という感じでしたが、2月中旬からイタリアで新型コロナウィルス感染者が出たと報道されるようになり、徐々に他人事ではなくなってきました。

学校当局者からも、学校での対策や、新型コロナウィルス流行感染国から帰国した子供に対する措置を通知する連絡が届くようになりました、また月末には勤務先でも感染者が確認されました。

この時期にスイス国内で感染が確認された事例は、すでに感染者が流行していた外国(特にイタリア北部)から入国した人が、入国後に発症した事例が多かったように記憶しています。

2月28日(金)

スイス国内での新型コロナウィルス感染者数が増加。特に、イタリアからの越境通勤者が多い Tessin 州で多くの感染者が出ていました。

スイス国内での新型コロナウィルス感染増加に伴いスイス連邦議会が緊急招集され、翌日から3月15日まで1,000人以上のイベント開催が禁止になりました。翌土曜日の時点ではスキー場が「1,000人以上のイベント」に該当するかの解釈が分かれ、一部のスキー場は営業を継続しましたが、日曜日からは全面休業になりました。

連邦政府によるプレスリリース

対策(国)
    • 1,000人以上のイベント禁止

    3月4日(水)

    2月末に骨折した足首を手術するため、入院。

    新型コロナウィルス予防のため、消毒薬が待合室に置かれるなどの対策は行われていましたが、この時点では病院は通常通りに機能していました。病院内の食堂も営業、見舞客の訪問も可能でした。

    またチューリッヒ州当局が新型コロナウィルスへの対策を改定。これに伴い、学校にも下記のガイドラインが設定されました。

    対策(学校)

    • 外部の人間(保護者を含む)が参加し、室内で行われる学校行事を避ける
    これにより保護者会や授業参観の日程延期、ならびに保護者参加の特別授業 (Projektwoche) の内容変更が決まりました。

    3月7日(水)

    退院。術後四週間は、手術した方の足には体重を軽く乗せるだけにするようにということで、松葉杖生活です。その間、会社は病欠で自宅待機。

    新型コロナウィルス新規感染者数が徐々に増え、連日報道されるようになりました。この時点では小学校や店舗営業は通常通り。

    3月13日(金)

    新型コロナウィルス感染拡大が止まらないため、連邦議会が追加措置を決定。アナウンスの翌日午前0時から施行されました。

    対策(国)
    • 100人以上のイベント禁止
    • 学校閉鎖
    • レストラン、バー、ディスコに滞在できるのは一店舗あたり従業員を含めて50人まで
    連邦政府によるプレスリリース

    外出規制は導入されないが、人との接触を減らすように (soziale Distanzierung) というアナウンスがありました。

    これにより、子供が通っている小学校も月曜日から閉鎖されることに。今後の授業については未定。

    3月16日(月)

    スイス連邦政府が感染症予防法に基づく非常事態宣言 (ausserordentliche Lage gemäss Epidemiengesetz) を発令。これに伴い州の権限の一部が連邦政府に移譲。翌日午前0時から施行。

    対策(国)

    • 規模に関わらず一切のイベントを禁止
    • 原則として全ての商店、市場、レストラン、バーならびに娯楽・余暇産業、スポーツセンター、スイミングプール、スキー場を閉鎖。
    • 距離を保てない一切の業務(散髪、コスメティックサロンなど)を閉鎖。
    • 陸路国境の閉鎖(ただし物流は維持)
    継続して営業される店舗・サービス
    • 食材店
    • 食料品テイクアウト
    • 社内食堂
    • 食料のデリバリー
    • 薬局
    • ガソリンスタンド
    • 自動車・自転車などの修理工場
    • 銀行
    • 郵便局
    • ホテル
    • 公共サービス
    • 社会サービス
    • 公共交通機関(タクシーを含む)
    連邦政府によるプレスリリース Coronavirus: Bundesrat erklärt die «ausserordentliche Lage» und verschärft die Massnahmen

    この時点で一般顧客向けの店舗は、生活を維持するために必要最小限のものを残して全て閉鎖されました。要請ではなく、法に基づく強制措置です。

    オフィスは継続して営業可能で外出も自由ですが、一般向けの店舗がほぼ閉鎖されたことと、学級閉鎖により子供が昼間から在宅することになったため、この時期を境に外出する人がぐっと減った印象です。

    また継続して営業する店舗では、感染防止のための措置として入場規制や店員・顧客の間を隔離するための仕切り板の導入が進められました。たとえば中〜大規模のスーパーマーケットでは、次のような対策がされるようになりました。
    • 入場者数が規制され、上限に達すると誰かが買い物を終えて出てくるまで次の人が入場できない。
    • 入場待ちをする人は、足元に2m毎に引かれた線に並んで待つ。
    • 導線が一本道に。
    • レジでは店員と顧客の間に透明なアクリル板が設置され、会話の際に飛沫が飛ばないようにする。

    3月19日(木)

    この日から小学校で Microsoft Teams を使った遠隔授業が始まりました。急いで準備したようで、まだ授業の形式などは手探りです。

    勤務先から、翌日よりオフィスが閉鎖される旨の連絡がありました。法律に基づく強制措置ではなく、会社判断とのこと。
    これにともない、会社から作業用のワークステーションを自宅に持ち帰って良いとアナウンスがあったので、まだ病欠中でしたが、急遽、車を出して会社からワークステーションを持ち帰りました。

    また、スイスから日本への一般郵便の発送が停止されました。

    対策(地方自治体
    • 小学校遠隔授業を開始
    対策(勤務先)
    • オフィス閉鎖

      3月20日(月)

      スイス連邦政府が対策を強化し、初めて個人に対する罰則付きの行動規制が課されました。この強制的な外出規制はなく、不要な旅行などは避けることが強く推奨される一方で、買い物や散歩などのために外出することは自由です。

      またチューリッヒ市は、住人が他人と距離を取るようにとの従前の規則に従わなかったため、一部の広場、公園、散歩道を閉鎖し、私の住んでいる村でも学校に隣接する運動場などが閉鎖されました。

      対策(国・継続)
      • 規模に関わらず一切のイベントを禁止
      • 原則として全ての商店、市場、レストラン、バーならびに娯楽・余暇産業、スポーツセンター、スイミングプール、スキー場を閉鎖。
      • 距離を保てない一切の業務(散髪、コスメティックサロンなど)を閉鎖。
      • 陸路国境の閉鎖
      対策(国・新規)
        • 公共の場で5人を超えて集まることを禁止。違反者には罰金が課される。
        • 5人以下でも、2mの間隔を保つこと。
        対策(地方自治体・新規)
        • 人が多く集まり 2m の間隔が保たれていない湖畔、公園、運動場などを閉鎖。
        小学校の遠隔授業に関しては先週2日間の経験を踏まえて、徐々にフォーマットが固まってきました。
        • チューリッヒ州では1クラスあたり20人前後ですが、全員が一度にビデオ会議に参加すると授業進行が難しくなるため、3〜4人程度のグループに分け、15分程度の授業を行う。
        • 授業は対話型の内容と、ビデオ会議終了後に個人で行う課題の説明。
        • ビデオ会議終了後、生徒は与えられた課題を行う。
        • 先生は全グループとのビデオ会議終了後は、質問に答えるためにオンラインで待機。生徒側から必要に応じてチャット、ビデオチャットで先生に質問します。
        一方で小学校低学年では、親の負担は大きいです(後述)。

        4月2日(木)

        妻の通院のため医院を訪れました。ビル2フロアを数人の医師で使っている、スイスでよくある小規模医院です。

        医院に入る時点で手指消毒ならびにマスク着用、待合室では他の患者と2mの距離をとり、医師と会話する際にも距離をとることが求められした。通常は待合室に数名の患者がいるのですが、このときはゼロ。医師に話を聞いたところ、対面診察が必要な患者以外は予約を延期し、来院する患者数自体を抑制しているとのことでした。

        4月8日(水)

        前日の4月7日(火)で遠隔授業がひとまず終わり、この日からイースター休暇ならびに春休みに入りました。
        現地の小学校では休暇中は宿題が出ませんが、子供が任意で通っている日本語学校からは宿題が出ているため、引き続き監督は必要です。

        4月16日(木)

        連邦議会から対策緩和のアナウンスがありました。3段階に分けて段階的に緩和、途中で感染者数が増えるようであれば中断、あるいは巻き戻しという条件付き。
        4月27日から

        一部店舗(下記)の営業再開
        • 理容室
        • マッサージ
        • コスメティック・スタジオ
        • ホームセンター
        • ガーデンセンター
        • 花屋
        • 庭師
        • 病院では、緊急を要しない手術を延期するようにしていた措置を撤回。
        5月11日から
        • 義務教育課程の学校再開
        • 一般商店の営業再開(ただしレストラン、バーなどは除く)
        6月8日から
        • 高等教育課程の学校再開
        • 公共施設の再開
          • 博物館
          • 美術館
          • 動物園
          • 図書館
        連邦政府によるプレスリリース

        4月23日(木)

        妻の検査のために、州の中核病院を訪れました。 病院の建物入口に検問が設けられており、まずはその前に 2m 間隔を保って並びます。検問では予約の有無を確認され、必要な人のみが入場を許可される仕組みです。入場に際しては備え付けの消毒薬での手指消毒、ならびにマスクの着用が求められます。

        妻はドイツ語がまだ不十分なため、私が医師と妻の会話を通訳するために同行したのですが、まずは同行者は外で待つようにと言われました。検査完了後、妻の担当医が私の入館を許可する旨の手紙を書いてくれたので、それを見せて初めて入館。

        この病院では新型コロナウイルスの検査も行っているのですが、そちらの検査を受ける患者は他の患者と接触しないよう導線を分けてありました。

        4月27日(月)

        春休みが終わり、小学校の遠隔授業が再開しました。これから2週間は遠隔授業、その後は小学校再開の見込みです。

        4月30日(木)

        村の教育局から5月11日以降の授業について連絡がありました。スイスでは連邦議会レベルで学校再開を決定し、保健省が感染症拡大防止のための保護計画 (Schutzkonzepte) の原則を策定、それをうけて州の保健局が保護計画を策定し、基礎自治体(市・村)が具体的な内容を策定・実施するという流れになっています。
        州レベルの保護計画
        Wiederaufnahme des Präsenzunterrichts an der Volkschule (Regelschule) ab 11. Mai 2020
        抜粋
        • 6月8日まで、義務教育における対面授業のクラスは15人まで
        • キャンプ、旅行、遠足、行事、運動会、終業式などは夏休みまで禁止
        • 連邦保健省の基準を遵守。(具体的な施策については)基礎自治体は地域や組織の状況に合わせて、調整することができる。
        • 今季の学業成績評価は行わない。
        基礎自治体レベルの保護計画(抜粋)
        • 各クラスを2グループに分け、対面授業はこのグループ毎に行う。同居の兄弟姉妹のスケジュールは同じになるように調整する。
        • 幼稚園児は12コマ、小学生は14コマの対面授業を受ける。
        • 対面授業は(園児・児童が所属するグループによって)月・火もしくは木・金いずれかに行われる。
        • 対面授業がない日には、(自宅で行う)課題が与えられる。
        • 水曜午前中は、小学生は音楽ならびに工作のリモート授業を受ける。
        • 学校での休み時間は、全クラスが一斉にとるのではなく、グループ分けがなされる。
        • 初日は生徒は校庭に集合し、教師が教室まで連れて行く。
        • 保護者は、学校の敷地内は絶対に必要な場合にのみ立ち入りを許可。校舎には、いかなる場合も立ち入り不可。
        • いかなるものであれ、病気の症状がある場合は登校禁止。
        • 校舎入り口に消毒薬を設置。児童が校舎に立ち入る際には、手指消毒を行うこと。
        子供のクラス内グループ分けについても連絡がありました。保護計画にあった通り、子供は二人とも同じ日に通学するスケジュールです。

        5月1日(金)

        自治体の教育局から学童保育についての連絡。6月8日までは、次の条件を満たす子供のみ預かるとのことです。
        • 親が、社会的に不可欠の分野に従事している場合。
        • 親が、社会的状況から保育を必要としている場合。
        • 親が、自宅で仕事を行えない場合。
        • 父子家庭、母子家庭。
        • 住宅事情が窮屈な場合。

        5月7日(木)

        自治体の教育局から5月11日以降の授業について、さらに追加連絡がありました。
        • 児童は校舎に入る前には、必ず(クラス単位で)決められた場所に集合し、教師が引率して校舎に入る。その際には手指消毒を行う。
        • 音楽・工作のリモート授業の担当教員、ならびに授業時間帯について。
        • 発音矯正、ドイツ語補習授業について。
        また学校外の事についても注意喚起。
        • 放課後、児童は寄り道をせずに家に帰ること。
        • 通学ならびに学校の時間外に、他の子供たちと混ざり合わないこと。
        新聞報道によると、チューリッヒ州・市内の公共交通機関を運営している ZVV (Zürcher Verkehrsverbund), VBZ (Verkehrsbetriebe Zürich) が、乗客のマスク着用を推奨とのこと。

        スイスでは、これまでマスクをつけている人はほとんど見ませんでしたが、今後は状況が変わりそうです。

        雑感

        情報源

        在スイス日本大使館

        在留届を提出していると、新型コロナウイルスの感染者数や、スイス連邦・州からの重要な通達、日本が導入する入国関連の措置や欧州・日本間の国際線運行状況など、スイス在住者に関係する内容をメールで送ってくれます。

        最低限必要な情報がカバーされており、また連邦・州からの通達も短期間で翻訳して配信されていました。

        公式情報

        スイス連邦保健局がプレスリリースや統計情報を Web に載せているので、定期的に見ています。

        チューリッヒ州保健局のページは、州レベルの規則や対策がアナウンスされた時に見ています。私の場合は、主に学校関係で対策がアナウンスされた場合に読んでいます。

        マスコミ

        最初は Google News で目についた記事を読んでいたのですが、最終的にスイスの日刊新聞 Neue Zürcher Zeitung をオンライン購読することにしました。チューリッヒを拠点とする日刊新聞としては Tages-Anzeiger と並ぶ大手新聞社です。

        買い物

        スーパーマーケットは営業しているので食料品などは買えるものの、入場制限もあり、家族で仲良く出かけるというのは無くなりました。妻が一人で週に1〜2回出かけて、必要な食材をまとめ買いしています。

        妻によると、保存が効く冷凍食品や消毒薬などの一部の物が品薄気味だが、入手できなくなるほどではないとのこと。また土曜日は人が多く、入場制限数の上限に達して並んで待つことになったので、なるべく人が少ない平日朝早くに行くようにしているそう。

        食材以外は、すべてオンラインショッピングです。配送の遅延はありますが、それでも国内あるいはドイツからの配送物は数日以内に届くことが多いです。欧州外からの配送だと、郵便網を使うものは大幅に遅れましたが、FedEx, DHL は比較的速かったです。

        余暇

        子どもたちも、友達の家に行ったり、公園や学校で遊ぶことはできなくなりました。春先はよく山にハイキングに行っていましたが、それも中止です。

        幸いマンションの敷地内(屋外)に遊べるスペースがあるため、うちの子供はよく同じマンションの子どもたちと遊んでいます。戸数が少ないマンションなので、遊び相手になるのは常に特定の数家族の子供です。スイスの基準に照らして、私の子供には
        1. 他の家庭の家に入るのは禁止
        2. 帰宅後はすぐに手洗い
        3. 子供同士で遊ぶときには距離を保つように
        と言っていますが、1, 2 はともかく、3 は完全には遵守できていないのが実情です。

        商店が閉鎖され学校も閉鎖されている状況下では、マンション内の子供同士は「家族」「同一マンションの子どもたち」という2グループに属するだけですが、徐々に社会生活が再開されていく段階になると「学校のクラスメート」というグループにも属すことになり、また接触頻度は低いとしても商店・レストランでの感染の可能性も出てきます。現実問題としてどこまで出来るかは何とも言えませんが、今後はマンション内の子供同士の接触も、より厳しく管理していく必要があるのかもしれません。

        なお外出自体は禁止されていないため、時間があるときには、子供と一緒に近所を散歩したりサイクリングしています。

        小学校の遠隔授業

        他の親の話を聞くと、私の住んでいる自治体は比較的早い時期から体系だった遠隔授業が行われたようです。近隣自治体だと学校閉鎖からイースター休暇の間、遠隔授業が一切行われなかったところもあるようです。

        ただし、親の負担は大きいです。

        ビデオ会議を行うための PC やタブレットの操作は子供に任せられないため、遠隔授業の最中は親が隣についている必要があり、プリントの印刷や課題を提出する際にも親が手伝うことになります。
        課題が出るといっても、課題によっては親と一緒に行うことが前提のものもあり、また放っておけば子供は勉強ではなく別のことをして遊び始めるため、うまく誘導(あるいは監視)する必要があります。また、子供が分からない所があれば質問を受け付けて、噛み砕いて説明する必要があります。

        子供によって差はあると思いますが、私の感覚だと子供一人につき毎日二時間、うちは二人いるので四時間は小学校の課題に時間を割く必要があります。必ずしも集中して連続四時間とはいかず、途中で子供が飽きてしまったり食事の時間が入ったりで、日中は断続的に時間が割かれます。

        在宅勤務

        子供がいると難易度が上がります。

        私はソフトウェアエンジニアで、もともと US や台湾のエンジニアとのやり取りも多かったので在宅勤務向きの業務内容なのですが、それでも自宅で子供の勉強の様子を見たり、子供が不定期に割り込みを掛けてくる(自転車に乗っていたら転んで怪我をしたとか)状況だと、集中力が必要な仕事をこなすのは難しいです。あとは気軽に近くのエンジニアに話をできないのも、問題解決の時間が長くなる原因。

        会社で仕事をしているのと比べると、子供が家にいる状態でのパフォーマンスは40%以下、妻が子供を連れて外に出てくれると80%というところ。

        その他

        新型コロナウイルスに関して連邦・州から多くの通達があり、また学校からも遠隔授業についてなど通常よりも多くの連絡が届きます。私はドイツ語の文章なら読めますが、日本語を読むのと比べると時間がかかるため、大量の文書が一度に届くとその処理にどうしても時間を食われます。

        移転します

        移転先:  https://blog2.issei.org/