スイス在住者が日本に一時帰国する際の医療保険

なぜ一時帰国時の医療保険が問題なのか

日本にいると気にする必要がないけれど、海外在住になると真剣に考えないといけないのが一時帰国時の医療保険です。

日本居住者向け医療保険制度

日本に住んでいる場合、何らかの公的医療保険に加入することが義務づけられており、保険料以外に支払う必要がある金額は非常に低額に抑えられています(自己負担額は現役世代で三割で、また上限額も設定されています)。

一方で海外在住者が一時帰国する場合には原則として住民登録はできず、したがって住民向けの公的医療保険に加入することもできません。実際には担当者の裁量で短期滞在であっても住民登録ならびに国民健康保険への加入を認めることもあるそうですが、これは住民税を払わずに住民向けのサービスを受けるという話になるので、今後、対応が厳しくなることはあっても緩和されることはないと思います。

日本の医療機関からの請求額

日本の医療機関では、全ての医療行為に国が定める診療報酬点数が設定されています。たとえば初めて病院の外来を訪れると初診料282点、薬を処方すると68点で合計350点といった具合です。

患者が日本の公的医療保険に加入している場合、医療機関では1点あたり10円として、その一部(現役世代は3割)を患者本人に、残りを公的医療保険に請求します。上の例であれば総額3,500円のうち3割に相当する1,050円を患者本人が病院に支払い、残りの2,450円は病院から公的医療保険に請求します。

患者が日本の公的医療保険に加入していない場合、次の3点が異なります。
  1. 診療報酬点数1点あたり10円以上を請求しても構わない。
  2. 消費税がかかる。
  3. 医療費の全額を患者に請求する。
公的医療保険では診療点数1点あたり10円、労災保険では12円と法で定められていますが、自由診療の場合には単価を医療機関が自由に設定することができます。1点10円から25円程度に設定している医療機関が多いようです。

仮に1点20円に設定されている場合、体調を崩して医師に見てもらって薬を処方してもったというケースで350点×20円/点=7,000円に消費税8%を加えた7,560円かかることになります。薬代も含めると総額は1万円程度。

この程度なら払えなくはないですが、何度も通院が必要になると負担も大きくなりますし、万が一入院が必要となると、たとえば比較的簡単な盲腸(虫垂炎)の手術でも合計30,000点程度になるため65万円前後の出費が想定されます。可能性が低いとはいえ、万が一、現実のものとなると大きな金銭的負担が発生するため、何らかの保険をかけるのが妥当です。

スイス在住者が利用できる保険制度

基本医療保険 (KVG)

スイスも日本と同様に皆保険制度をとっており、スイス在住者は基本医療保険 (KVG) に加入することが義務付けられています。日本と異なり保険は民間保険会社によって提供されていますが、保険対象の医療行為と単価は国が定めており、また健康状態によらず同一の条件で加入できることが保障されています。

スイスの基本医療保険に加入している場合「海外でのケガや病気に対する緊急を要する治療」も保険金支払いの対象となり、費用もスイス国内で同等の治療行為を受けたときの2倍まではカバーされます。スイスは日本と比較して医療費が高いため、これで不足するケースは少ないと思います。

一方、基本医療保険で対応できないケースもあります。
  • スイスと日本では承認されている治療方法や薬が完全に一致しているわけではない。したがって日本で標準的な治療を受け、薬を処方されたとしても、スイスの基本医療保険では保険対象外の可能性がある。
  • 基本医療保険が対象とするのは、あくまで海外での発病や受傷なので、スイス出国前からの既往症は対象外。定期的な通院が必要な慢性病を抱えている場合や、出国前に怪我をして継続しての通院が必要な場合も保険対象外となる。
  • 緊急の治療のみが対象となるため、緊急ではない場合には原則としてスイスに帰国して治療を受けることになる。(ある程度長期間の滞在だと帰国予定を繰り上げないといけなくなる可能性がある)
単なる海外旅行であればスイス国内で病気や怪我をしたら取りやめるという選択肢も十分に現実的ですが、日本人が一時帰国する場合に、それで取りやめとなると厳しいものがあります。

追加医療保険 (VVG)

スイスの保険会社は、基本医療保険 (KVG) に加えて、それではカバーされないリスクに対応する追加医療保険 (VVG) も販売しています。


追加医療保険は各社内容が様々ですが、たとえば大手医療保険会社グループ CSS が販売する Ambulantversicherung myFlex Premium を契約すると、海外における緊急時以外の通院 (Wahlbehandlungen) に関しても保険金支払いの対象となります。

海外旅行保険

海外旅行に関わるリスクをカバーする保険として海外旅行保険 (Reiseversicherung) がありますが、これも基本医療保険と同様に海外での発病や受傷が対象です。基本医療保険と比べると保険でカバーされる金額の上限や治療内容は広いですが、一時帰国での利用には適しているとは言い難い内容です。

将来展望

スイスで医療保険を提供している企業が、基本医療保険 (KVG) で海外における治療をカバーすべきだという提言をしています。スイス国内の医療サービスが高いため、隣国での治療を認めたほうが保険会社としても負担が少なくなる由。

参考: Kranke sollen sich im Ausland behandeln lassen

実際に法改正される目処は立っていませんが、これが実現すると助かりますね。

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