2015年6月26日金曜日

スイスの医療保険 (2)

スイスにおける医療制度の話。前回の続き。

追加保険 (VVG)

追加保険とは、強制加入である基本保険(KVG)で保障されないリスクをカバーするための保険です。

基本保険と異なり加入は任意で、提供される内容も保険会社ごとに異なります。また保険会社は、既往歴や医師の診断書を保険料算定ならびに引受可否の判定に用いることが出来ます。基本的に罹病して入院が想定される状況では保険会社が引き受けを断るため、健康な内に加入しておく必要があります。(例外として保険会社が企業に対して団体契約プランを設定している場合、その特典の一つとして追加保険加入申請の際の診断書の提出を免除し、無条件で加入を認めるという特約が含まれていることがあります)

追加保険は商品設計の自由度が高く、各社で大きく異なるパッケージングをしているため分類が難しいのですが、追加保険でカバーされるリスクの範囲はおおよそ次のように分けられます。
  • 外来診療
  • 入院
  • 代替医療
  • 歯科治療
  • 予防医療
なお、いずれに関しても詳細は保険毎に異なります。たとえば特定の治療に関して、ある保険では保険会社8割負担(自己負担2割)で上限なし、別の保険では保険会社全額負担だが年間上限3,000CHFといった具合です。

基本保険と追加保険は同じ保険会社から購入しても、別の保険会社から購入しても構いません。ただし同一保険会社から購入した方が保険金請求手続きなどが簡単です。

外来診療

基本保険でカバーされない、次のようなリスクに対応します。

医療機関の地理的制約

緊急時を除き、基本保険で通院できる医療施設は、居住地もしくは就労地の州内にあるものに限られます。たとえ隣の州の病院に患っている病気の世界的権威がいたとしても、その医師の診察を受けると全額自己負担となります。

追加保険を購入することで、基本保険と同等の自己負担額で州外の医療機関でも受診可能となります。一般にはスイス国内の医療機関での受診のみ保険金支払い対象ですが、より高額な保険では全世界の医療機関での受診が保険金支払い対象となります。

これは特に小さな州に住んでいて州内に医院の選択肢が少ない場合や、州の境界近くに住んでおり、隣の州の医院のほうが通いやすい場合に有用です。

基本保険では、緊急時を除きスイス国内医療機関での受信のみ保険金支払い対象ですが、全世界の医療機関での受信が保険金支払い対象となります。

2020年6月23日訂正: 外来診察に関しては、居住地や就労地による制約はありません。対応する法律の条文は 832.10 Bundesgesetz über die Krankenversicherung (KVG), Art. 41 です。
Art. 41 Wahl des Leistungserbringers und Kostenübernahme
Die Versicherten können für die ambulante Behandlung unter den zugelassenen Leistungserbringern, die für die Behandlung ihrer Krankheit geeignet sind, frei wählen. Der Versicherer übernimmt die Kosten nach dem Tarif, der für den gewählten Leistungserbringer gilt.

救急搬送

緊急時に救急車などを利用して医療機関に搬送された場合、基本保険から支払われるのは5割かつ年間500CHFまでに限られます。特に近隣に救急病院がない地方では救急搬送が長距離になるため、費用が高額になりがちです。

海外での緊急治療

海外で急病や怪我をして通院した場合、基本保険からは「スイスで同等の治療を受けた場合の2倍」を限度として保険金の支払が行われます。
スイスは医療費が比較的高いため、欧州内を旅行する分には基本保険で十分対応可能ですが、米国のような医療費が高額な地域を旅行中に通院することになった場合、基本保険からの支払いでは不足します。

任意妊婦検診

妊娠した場合、基本保険では8回の検診と2回の超音波検査が保険で支払われます。超音波検査に関して、回数の上限なく一定割合が保険会社負担となります。

入院

入院に関する追加保険はリスクに対応するというより、より良い治療を受け、快適な入院生活を送るためのものです。

入院に際しては、受けるサービスを次の3つのレベルから選択します。
  1. 大部屋プラン (Allgemein)
  2. 二人部屋プラン (Halbprivat)
  3. 個室プラン (Privat)
追加保険も、これに応じて3レベル設定されているのが一般的です。

また事前にプランを決めず、入院が決まってから受けるサービスを決められる追加保険もあります。

医療機関の地理的制約

緊急時を除き、基本保険で入院できる医療施設は、居住地もしくは就労地の州内にあるものに限られます。

追加保険を購入することで、基本保険と同等の自己負担額で州外の医療機関でも入院可能となります。保険会社と提携している病院にのみ入院可能とすることで保険料を割り引いたり、スイス国内にかぎらず海外の医療機関に入院した場合でも保険料が支払われるという選択肢を提供している保険会社もあります。

病室

基本保険では、病室は治療上の必要がない限り大部屋となります。追加保険では保険の種類に応じて、二人部屋もしくは個室での入院が可能となります。

なお、これは単なる快適さの問題ではなく、入院時の待ち時間にも影響するようです。緊急ではないが手術が必要な場合、たとえば骨折後の治療が悪く骨が正しくない形でついてしまったために再手術が必要というような場合、大部屋だと3ヶ月待ちなのが個室だと2週間後に入院可能となったという事例をインターネット上で見かけました。検査機器の利用順位などに関しても、大部屋の患者より二人部屋、個室の患者が優先されるようです。

また私立病院では大部屋がなく、すべて二人部屋もしくは個室という病院もあります。このような病院では、該当するレベルの追加保険に加入していることが入院の前提条件となります。

医師

医師への診療報酬も、入院時に選択したサービスレベルによって変わります。大部屋プランが一番安く、基本保険でカバーされる金額。二人部屋プランでは大部屋プランの1.5〜2倍程度、個室プランでは2〜3倍程度に設定されているようです。

大部屋プランの場合、医師は病院の側で割り当てますが、二人部屋プランならびに個室プランでは患者が医師を指名することが可能です (freie Arztwahl)。一般に大部屋プランの患者に対しては経験が浅い医師、二人部屋プランの患者には経験豊富な上級医、個室プランの患者に対しては各科の長クラスが主治医となります。

なお、例えば手術の難度が高い心臓病を患っている場合などは、たとえ大部屋の患者でも執刀医はその力量がある医師が割り当てられるため、プランによって生存確率が大きく変わるということはありません。

アップグレード

二人部屋プラン、個室プランの追加保険に加入していない場合でも、差額を自己負担することでアップグレードするプランを病院側で提供している場合があります。

この場合、部屋だけアップグレードする場合と、医師への診療報酬や付帯サービスすべてをアップグレードする場合があります。前者のほうが安いですが、部屋の空き状況などによっては断られる可能性があります。

代替医療

基本保険でカバーされない鍼、灸、マッサージや、未承認薬に対する保険です。眼鏡・コンタクトレンズに関しても一定金額まで保険から支払われるものもあります。

歯科治療

基本保険では、歯科治療に関しては健康に即座に影響があるもの以外は対象外です。たとえば虫歯の治療や、歯の詰め物がとれてしまったので付け直したいといったケースは一切保険からの支払いはありません。
なお歯科治療に関する保険は上限が低く、かつ率も悪いです。たとえば保険料が300CHF/年に対して、保険金支払いは5割で上限1,000CHF/年など。この程度であれば貯蓄でカバーした方がいいということで、加入者は少ないです。

子供の歯並びの矯正に関しても基本保険ではカバーされないため、追加保険でカバーすることになります。こちらは矯正が必要となるリスク自体は低いものの、いざ矯正を行うとなった場合の費用は高額なため、保険でカバーするという選択肢を取る親も多いです。なお矯正が必要だと判明してから保険に加入することはできないため、出生後すぐに加入して保険料を払いつつ様子を見ることになります。

予防医療

病気や怪我になってからではなく、それを未然に防ぐための活動に対して保険会社が一部費用を負担します。これは単体の保険ではなく、外来診療や入院に対する追加保険を購入すると付随してきたり、他の保険とのセットとして提供されます。

任意予防接種

代表的な伝染病に対する予防接種は基本保険でカバーされていますが、たとえば日本では国や地方自治体が費用負担する結核や日本脳炎に対する予防接種は、スイスの基本保険では対象外です。スイスにいる限り、結核や日本脳炎に罹患するリスクが十分に低いためです。
このような基本保険対象外の予防接種に関しても、一定の条件を満たすものは保険負担となります。

健康診断

日本では、雇用者は非雇用者に健康診断を受けさせる義務があるため、会社勤めをしていると毎年会社負担で健康診断を受けることになりますが、スイスでは健康診断は任意です。この費用が一部もしくは全額補助されます。

運動関係の費用

スポーツジムの年会費などに対する補助です。

保険料

任意保険に関しては保険会社毎に商品設計が大きく異なりますが、大手である Sanitas の追加保険を参考として付けておきます。

前提条件: 男性, 30歳, チューリッヒ市内居住, 会社勤務、病気・事故対応

入院保険

  • 大部屋プラン, スイス国内提携病院 9.6CHF/月 (1,260円/月)
  • 二人部屋,プラン スイス国内認証病院 64.9CHF/月 (8,600円/月)
  • 個室プラン, 全世界の病院 103.8CHF/月 (13,700円/月)
大部屋プランであっても、一定割合を自己負担とすることで二人部屋(自己負担2割5分、上限10,000CHF)、個室(自己負担5割、上限20,000CHF)対応の保険として医療機関側で取り扱われるようにすることが可能です。

大部屋プランの「スイス国内提携病院」はポジティブリスト方式をとっているのに対し、二人部屋プランの「スイス国内認証病院」はネガティブリスト方式をとっており、リストにあるいくつかの病院を除いては入院可能です。病院の選択肢は、入院保険種別が大部屋プラン、二人部屋プラン、個室プランとなるに従って広がります。
また大部屋プランと二人部屋プランに関しては、保険が支払われる入院日数に180日の上限が設定されていますが、個室プランは無制限です。半年以上入院するのは稀ですが、その稀な場合をこそ保険でカバーしたい(万が一長期入院となった場合に貯蓄ではカバーしきれない)ということであれば、個室プランを選択することになります。

基本的には以上ですが、他に保険料に影響がある細かい項目が設定されています。

まず免責額を設定することが可能です。たとえば二人部屋プランであっても、1,000CHFまでは自己負担とし、それ以上かかった場合のみ保険会社負担とすれば保険料を安くすることが可能です。
一般に、罹患してから追加保険に加入したり保険のカテゴリを上げる(大部屋プランから二人部屋プラン、二人部屋プランから個室プラン)ことはほぼ不可能ですが、一定額の保険料を支払うことでカテゴリ変更を保証するオプションを付けることが可能です。

また Sanitas 以外の例となりますが、出産を対象外とすることで入院保険の保険料を割り引く選択肢を提供している入院保険もあります。

外来診療、代替医療、予防医療

  • 33.2CHF/月 (4,400円/月)
Sanitas では外来診療、代替医療、予防医療はセットの保険となっており、一部のみに加入することはできません。別の保険会社、たとえば CSS ではより細かい粒度で加入することが可能です。

基本保険 (KVG) + 追加保険 (VVG) 保険料合計

チューリッヒ市内に住む健康な 30代夫婦 + 子供2人の家庭を考えると、基本保険と追加保険で毎月700CHF (92,000円) から1,200CHF (158,000円) 程度かかることになります。

最も安いモデル
免責額: 大人2,500CHF/年、子供0CHF/年
基本保険モデル: 大人 HMO, 子供 標準(制約なし)
追加保険: なし
保険料 約700CHF/月

最も保障が充実したモデル
免責額: 大人2,500CHF/年、子供0CHF/年
基本保険モデル: 標準(制約なし)
追加保険: 入院 個室プラン, 外来診療・代替医療・予防医療対応
保険料 約1,200CHF/月

月に1,200CHF=年間190万円は高額に見えますが、実は日本だと高額所得者はより多くの金額を負担しています。
東京都の政府管掌健康保険加入というケースを考えると、世帯年収1,100万円でスイスの基本保険にのみ加入した場合と同等の保険料、2,000万円で追加保険にフルセットで加入した場合と同等の保険料を納めることになります。免責額や医療費の上限に違いがあるので、単純に保険料だけでは比較できませんが。

なお日本だと納める保険料と受けられるサービスは無関係ですが、スイスだと追加保険を購入すれば受けられるサービスが良くなるため、一定以上の収入がある人にはスイスの医療システムの方が魅力的に映ると思われます。

2015年6月14日日曜日

スイスの医療保険 (1)

スイスにおける医療制度の話。

スイスの医療費は高額ですが、万が一、怪我や病気を患った時に必要な治療が受けられるよう、リスクを分散して負担するための制度が社会に組み込まれています。中心となるのは健康保険(医療保険)ですが、この制度設計が日本とは大きく異なります。

個人的には、患者側から見ると日本の医療制度はかなり恵まれていると思いますが、高齢者が増えていく今後は持続可能性に疑問があります。スイスも高齢化に伴い医療費の増加が問題となっていますが、日本よりは状況は良いようです。
日本の今後の医療制度を考える上で、混合診療の是非(日本医師会による反対意見)や専業主婦の扱いなど、日本とは異なる制度を見てみるのも参考になると思います。

日本とスイスの医療制度比較

大きな違いは次の3点。
  • 日本の健康保険は実際には福祉(応能負担)だが、スイスでは保険(応益負担)
  • 小さなリスクに関してはカバーせず、大きなリスクのみカバーする。
  • 必要最低限をカバーする基本保険と、それ以上の保障を求める人向けの追加保険の組み合わせ。(混合診療)
一方で類似点は、国民皆保険制度をとっている点です。
  • 国が介入して医療保険でカバーされる治療の範囲を決めている。
  • 全員が基本保険に加入しなければならないが、逆に、保険会社によって加入を拒まれることもない。
以下、スイスの医療保険制度を細かく見ていきます。

基本保険 (KVG)

スイスに一定期間以上住む人間は、原則として基本保険に加入する義務があります。例外は海外赴任などでスイスに来ていて、基本保険よりも優れた保険にカバーされている場合。

基本保険では、国によって、保険が適用される治療や処方薬が定められています。ただし、一般的な治療はほぼ基本保険で賄われると思って間違いありません。日本と比較して薬の承認なども早く、たとえば肺炎球菌ワクチンは日本では2013年まで7価対応でその後にようやく13価対応となりましたが、スイスでは早くから13価対応ワクチンが使用されてきました。

基本保険は民間保険会社によって提供されて、個々人で保険会社から購入します。ただし医療難民を産まないために、保険料の算定にあたっては次の情報しか使用できないことになっています。
  • 年齢
  • 性別
  • 居住地
この中に入っていない重要な情報は、既往歴です。保険会社としては、重病を患っていて定期的に高額な治療が必要な患者の加入を認めると持ち出しになるのが明白なので断りたいところですが、それは認められません。これによって高額な医療費が払えずに治療を受けられないという問題の発生を防いでいます。

日本では使われているのに、スイスでは使われていない情報は年収です。日本は年収が増えると保険料が増える(応能負担)ですが、スイスではあくまでリスクに応じて保険料を負担する(応益負担)制度になっています。また専業主婦や子供を扶養者として無料でカバーする制度もありません(ただし子供に関しては保険料が安く抑えられています)。
本来、保険というのはリスクに応じて保険料を負担して、万が一リスクが実現した場合には集めた保険料から支払いを行う制度です。日本の医療保険制度はリスクと無関係に保険料が決まっているが受けられるサービスは同じという点で、保険ではなく税金と呼んだほうが適切な制度です。

基本保険を購入する場合、各人で選択可能な要素が2つあります。
  • 保険モデル
  • 控除額

保険モデル

これは、医師にかかる権利に制約を設けることで保険料を割り引くことです。最も割高なのが制限なしのモデルですが、それに対して次のような保険モデルがあります。

Telmed
医師の診察を受ける前に、保険会社のコールセンターに電話をかけます。保険会社の方で医師の診察が必要と判断した場合は、保険会社側で医師の予約をとるか、あるいは患者側でとった予約を伝えて承認を受けます。
コールセンター側の判断に束縛される契約と、コールセンターが通院不要といった場合でも患者判断で通院できる契約があります。もちろん前者のほうが保険料は割安。私は実際に利用したことはないのですが、聞いた範囲では運用はそれほど厳しくないようで、何らかの症状が出ているにも関わらず通院が認められないことはほぼ無いようです。

HMO
通院する場合、必ず最初の一回は保険会社指定の一般医に診察を受けます。一般医が診察の上、必要であれば専門医に紹介されます。
保険会社が開業医を組織してネットワークを作っている場合と、保険会社が一般医を集めた診療所を開設している場合があります。

GP
かかりつけ医を決め、通院する場合、最初の一回はそのかかりつけ医に診察を受けます。かかりつけ医が必要と判断した場合、専門医に紹介されます。

一般医と専門医を比較すると、前者のほうが診察費は安いです。素人判断で専門医にかかったところ、実は大したことがなくて自宅でゆっくり寝ていれば良いだけということが判明したり、誤った専門科にかかってしまうことを防止することで保険金支払いを抑制し、結果的に保険料を値下げしているものと思われます。

控除額

スイスでは、毎年一定額までは全額自己負担となります。これを控除と呼びます。控除額は一定の範囲内で加入者が自由に選択することができます。大人は年間300CHFから2500CHF、子供は0CHFから300CHFまで。
健康な大人の場合は控除額を2500CHFとし、子供は0CHFにすることが一般的。持病がある場合には大人でも300CHFを選択します。

年間の医療費が控除額を超えた場合、超えた金額の90%を保険会社負担、10%のみ自己負担となります。たとえば控除額300CHFに設定してあって600CHFの医療費が発生した場合、次のような負担割合となります。

  • 最初の300CHF = 全額自己負担
  • 次の300CHF = 90%保険負担 (270CHF) + 10%自己負担 (30CHF)

自己負担額にも上限が設定されており、年間700CHFまでです。それを超えると全額保険負担。

日本では医師に診察を受けると、初回から自己負担額は3割で、残りの7割は保険組合負担です(現役世代の場合)。したがって軽い風邪でも気軽に医師にかかれます。
一方スイスでは一定額までは100%自己負担なので、軽症の場合には医師にかからず薬局で薬を買って済ませることが多いです。しかし本当に高額な医療費がかかる場合には、保険が手厚く負担する制度になっています。

保険料

基本保険料の算出に用いられるのは年齢、性別、居住地、保険モデル、控除額ですが、保険会社によって金額が異なります。
受けられるサービスが同じである以上、保険料が安いところに集中するかというとそうでもなくて、保険金請求に対する対応の早さ、Telmed を選んだ場合のコールセンターの混雑具合や近くの医師が HMO に加入しているか、書類の対応言語数(私にとっては英語対応かどうかが重要)、オンラインシステムの使い勝手、また取り扱っている追加保険の内容といった基本保険自体以外の要素も踏まえて選択されます。

大手である Sanitas での2015年の保険料を参考につけておきます。

共通: 男性, 30歳, チューリッヒ市内居住, HMOモデル, 会社勤務

ケース1 健康な場合
控除額: 2500CHF (33万円)
保険料: 257CHF/月 (34,000円)

ケース2 頻繁な治療が必要な持病がある場合
控除額: 300CHF (4万円)
保険料: 377CHF/月 (50,000円)

健康で特に医師にかからない場合は年間3084CHF(41万円)を保険会社に支払って受取はなし、持病があって頻繁に病院にかかる場合には保険料、控除額と医療費自己負担分の合計年間5524CHF(73万円)を負担することになります。健康な場合と医療費がかさむ場合とで、負担額に1.8倍程度の差しかないことが分かります。

(*) 厳密にはスイス居住者は医療と事故双方の基本保険に加入する必要がありますが、会社勤務だと事故に対する保険は会社が提供するため、基本保険から除外することで保険料が多少安くなります。

(続く)

スイスのガソリンスタンド利用方法

油種

レギュラーガソリン、ハイオクガソリンと軽油があります。ガソリンは Benzin もしくは  bleifrei (無鉛)、軽油は (Diesel) と表記されます。日本では軽油のイメージカラーは緑ですが、こちらはではガソリンが緑で軽油は黒です。

スイスのレギュラーガソリンはオクタン価95、ハイオクガソリンは98。エンジンによってどちらを使うかが指定されています。なお日本ではオクタン価96以上をハイオクガソリンとしているため、欧州車は現地ではレギュラーガソリン指定でも、日本に持ってくると全てハイオク指定となります。

軽油は通常1種類ですが、添加物などを混ぜてエンジンをきれいに保つと謳ったプレミアム軽油を売っている場合もあります。効果の程は不明。

給油・支払方法

ガソリンスタンドにコンビニのような店が併設されている場合には、先に給油を済ませてからお店のカウンターに行き、使用した給油機の番号を告げて料金を払います。給油機には特にロックがかかっていないので、車を停めたら店員に何か告げることもなく、いきなりノズルをとって給油開始で OK。

無人のガソリンスタンドでは給油機がロックされています。先に給油機の近くにある機械にクレジットカードもしくは現金を通し、給油機のロックを解除してから給油を行います。

2015年6月11日木曜日

BMW 320d Touring xDrive 納車3ヶ月

3月に自動車を購入しましたが、3ヶ月で4,000km強走っての感想です。



車種は BMW 320d Touring xDrive で、主要諸元は次の通りです。
  • 中型車クラス (Dセグメント)
  • ステーションワゴン
  • 2000cc ディーゼルエンジン
  • 8速オートマチックトランスミッション
  • 四輪駆動
これに安全・快適系のオプションと、見栄え系のオプションが色々ついてます。見栄え系の方は個人的にはどうでも良いので(在庫車を買ったので選択の余地がなかった)、安全・快適系の装備だけまとめると次の通り。
  • カーナビゲーション
    • リアルタイム渋滞情報対応
    • 標識をカメラで認識し、制限速度・追い越し規制情報を表示
  • ヘッドアップディスプレイ
  • 電動式シート、調整位置記憶機能付き
  • シートヒーター
  • 前車追従クルーズコントロール
  • レーン・チェンジ・ウォーニング
  • 自動ヘッドライト(オンオフ、ハイビームや照射範囲のコントロール)
  • 自動ワイパー
  • リアカメラ
  • 前後超音波センサー
  • 縦列駐車支援システム
実用品として車を購入する場合、サイズは乗車人数と用途で必然的に決まります。親二人と子供二人が乗ってスーツケースなどの荷物を積んで遠出するのに適したサイズとなると Dセグメント。
また私の用途だと週末に家族連れで遠出することが多いので、安全装備と運転支援システムがあり、かつ冬場にはスキー場に行く可能性があるので四輪駆動が望ましい。妻と私と双方とも運転するので、座席は細かく調整できて電動で位置を記憶できると猶良し。

そもそも BMW を買う予定はなかったのですが、条件を満たす車を探していたところ近くのディーラーに店頭在庫車 (走行距離40kmの試乗車) があり、値段交渉の結果、だいぶ安くなったので購入しました。
当初はマツダのアテンザ 2015 年モデルや Volkswagen Passat などを考えていたのですが、スイスでは価格が高く、装備を同レベルに合わせると BMW の店頭在庫車とあまり変わらない状況。あとアテンザはちょうど新型が出たばかりで店頭在庫車がなく、新車は4ヶ月待ちだったのが痛かった。
(中古車も検討しましたが、販売店が辺鄙なところにあるので車がないと見に行くのが難しく、また英語を話せる店員さんも限られるので今回は購入先から外しました)

購入してすぐにチューリッヒからジュネーブまで往復600km弱を日帰りで走りましたが、さすがに安全・快適装備の運転支援機能が強力で、かつシートが良く出来てきているので疲労も軽かったです。

装備品に関しては、フルカラー・高解像度のヘッドアップディスプレイが気に入りました。フロントガラスにカーナビの進路指示、制限速度と現在の車速が投影されるのですが、運転時にはこの情報だけでほぼ事足ります。
スイスでは高速道路も下道も頻繁に制限速度が変わるため、まだ道に慣れていない身には、制限速度が常にヘッドアップディスプレイに表示されるのも予想以上に便利でした。

ヘッドアップディスプレイには大きな利点が2つあります。1つはフロントガラスに投影されるため運転中に前方から視線を外さすに見られること。もう1つは虚像の投影距離が運転席から前方5メートルの位置になるため、運転中に目の焦点距離を大幅に変える必要がないこと。
一般的なカーナビだと、次の交差点を確認するためには視線を前方からモニタに移して眼の焦点も遠距離から近距離に変更する必要があるため、前方車両を確認できない時間が長くなりがちで、かつ目の負担も大きい。

縦列駐車支援システムは完全に実用レベル。チューリッヒ市内などで駐車する際に何度も利用していますが、操作が簡単でかつ自動操作も迅速なので、慣れた人間が停車するのと同程度の所要時間で駐車できます。必要最小限の切り返し回数で駐車するので、これに勝つのはけっこう熟練が必要。日本やアメリカだと出番は少ないと思いますが、縦列駐車が多いヨーロッパの街中だと重宝します。

またヘッドライトとワイパーの自動コントロールも実用度が高いです。日本の高速道路は街灯がこまめに設置されていますがスイスだとかなり暗いため夜間運転時にはハイビームのオンオフをこまめに切り替える必要があり、またトンネルが多いので雨天時には頻繁にワイパーのオンオフが必要になるためです。

日本で乗っていたマツダのアテンザ XD-L(欧米でのモデル名は Mazda 6)のセダンと BMW 320d Touring xDrive を比較すると、一長一短ですね。

エンジン
両方ともディーゼルエンジンですが、アテンザのほうが高回転まできれいに回り、加速も力強いです。高速での追い越しなどはアテンザのほうが気持ちいいですね。
燃費はどちらも優秀で、私の用途だと 17km/l ぐらいは走ります。遠出するときに給油回数が少なくて済むのは助かります。

トランスミッション
アテンザは6速マニュアル (6MT)、BMW 3 は8速オートマ(8AT)なのでそもそもが全く違いますが、運転していて楽しいのはアテンザでした。自分で操っているという実感がある。
一方 BMW の 8AT はエンジンの美味しい回転数をこまめに拾っていく感じで、シフトチェンジしていることはエンジン音で分かるけれどもショックはまったく感じないという滑らかさ。

一般に同じ段数のマニュアルミッションとオートマティックミッションだとマニュアルの方が燃費が良いのですが、さすがに8速ともなると燃費効率がいい回転数を使えるため 6MT より 8AT のほうが燃費が良くなります。今後はマニュアル車を選ぶのは、趣味と初期コストの安さ以外の理由はなさそうです。

シート
個人的にはアテンザのシートの方が合っている気がしますが、どちらも長距離を快適に走れる良いシートだと思います。

トランクルーム
アテンザセダンの方が幅、奥行きとも大きく使いやすい。BMW 3 は奥行きが狭く(ベビーカーを縦に突っ込めない)、タイヤハウスが張り出しているため意外と狭いです。大きな荷物は大型スーツケース1つとベビーカーでおしまいで、大型スーツケース2つは無理。
代わりに後部座席が 4:2:4 分割で真ん中だけ倒せるので、4人乗車しつつ長物が積めます。

車体
アテンザのほうが若干大きいですが、取り回しはやや楽な気がします。BMW 3 は4隅の位置が掴みにくい。ただ最初はアテンザもやや苦労した気がするのと、スイスは右側通行なので慣れてないだけかもしれません。
いずれも見切りは悪いので、リアカメラと超音波センサーをつけておいたほうが良いと思います。

ハンドリング
アテンザのほうが緩やかで、BMW 3 のほうが機敏です。コーナーリングする場合、アテンザだとハンドルを切ってから車体がすっと沈み、コーナリングの姿勢が決まる感じですが、BMW だとハンドルを切った瞬間に鼻先から向きが変わり、車体の向きの変化が後からついてきます。前輪駆動と後輪駆動(ベースの四輪駆動)の差ですかね。
BMW 3 は、高速道路を走る際などはハンドルがやや機敏すぎる感もあります。ハンドルへの反応の機敏さはワインディングでキビキビ走れることと表裏一体なので、どちらが悪いというわけではありません。

安全・快適装備
どちらも充実していますが、BMW 3 にしかないものとしてリアルタイム渋滞情報を考慮したナビゲーション、フルカラー・高精細のヘッドアップディスプレイ、速度・規制情報の表示、縦列駐車支援システム、停車状態まで対応できる前車追従クルーズコントロールなどがあります。
なおアテンザ (Mazda 6) の上位モデルではこれらの装備は標準ですが、スイスの BMW だとほぼ全てオプションです。

価格
BMW は高級車の枠に入るのでもちろん価格帯は高いのですが、スイスでは通貨高もあって日本車もかなり高価です。アテンザの四輪駆動モデルだとカタログ価格700万円ぐらい。実際には欧州車がユーロ安に伴い値下げしているので、対抗値下げがあって600万円台前半までは下がりますが、それでも高級車の値段ですよね。
BMW を始めとする欧州車は流通数も多いため、新車だけでなく店頭在庫車や試乗車あがりの新しめの中古車を探すのも容易です。

総論としては、突出したところはないですが、バランスよく致命的な欠点もない優等生的な車だと思います。同じ車体でエンジンだけ異なる上位モデルがあるので、それに乗るとまた印象が変わるかもしれません。

移転します

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