2014年11月24日月曜日

出国日と住所、税金

所得税・住民税の支払いに関しては「いつ」「どこに」住んでいたのかが重要になります。そのため、出国日の違いで支払う税金が大きく変わることもあります。

所得税

所得税は国税、すなわち日本国に対して収める税金です。一般的に日本で生まれ育った日本人は「居住者かつ永住者」となり、国内外問わず全ての所得に対して所得税が課されます。一方で海外に移住した場合には「非居住者」となり、国内での活動に基づく所得に対してのみ所得税が課されます。

居住者と非居住者は、所得税法 第二条の三、五で次のように定められています。
第二条
 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。第二条三、四で次のように定められています。
 非居住者 居住者以外の個人をいう。
これまで日本で生まれ育って日本の企業に努めていた人が海外企業に就職するために出国した場合、出国までは「居住者」として全所得に対して日本の所得税が課税されるのに対して、出国後は「非居住者」となり日本への所得税支払いはなくなります。

なお、出国後であっても国内での活動に基づく所得(国内源泉所得)に対しては日本国に所得税を納める必要があります。会社員で良くあるのは、退職金や賞与が出国後に支払われる場合。なお居住者と非居住者は所得税の計算方法が異なるため、やや面倒なことになります。

出国当日の扱いについては、法律には記載がありませんが国税庁による通達があり、居住者として扱うことになっています。出国の翌日から非居住者。

2-4の3 (略)過去10年以内に住所又は居所を有することとなった日(以下この項において「入国の日」という。)と住所又は居所を有しないこととなった日(以下この項において「出国の日」という。)がある場合には、当該期間は、入国の日の翌日から出国の日までとなることに留意する。 (平18課個2-7、課資3-2、課審4-89追加)
(注:当該期間=国内に住所又は居所を有していた期間)

住民税

住民税は地方税で、都道府県と市区町村(もしくは特別区)に納める税金です。所得税と異なり、これは賦課期日(一月一日)に住所がある地方自治体に対して納税することになっています。

地方税法
第三十九条 個人の道府県民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。
つまり12月末に出国すれば、その年の所得に対しては住民税がかからず、1月上旬に出国すると住民税を100%払う必要があります。所得によっては、数日の出国日の違いで大きな納税額の差になります。

所得税と異なり、出国当日の扱いについては明確な規定がありません。ただし国内での住所変更では、取り扱いは次のように統一されています。
  1. 引越し前に引越元(元々住んでいる自治体)に転出届を提出する。転出届には転出予定日を記入する欄があり、この予定日当日から住民票の発行などが行えなくなる。ただし転出予定日はあくまで予定であり、法律的な意味はない。
  2. 次に引越を行い、その後に引越先(これから住む自治体)に転入届を提出する。転入届には異動日を記入する欄があり、そこに記入した日付からその自治体に住所があることになる。また合わせて、異動日の前日が以前に住んでいた自治体に住所があった最終日となる。
このため、国内に住んでいるにもかかわらず住所がない、あるいは住所が複数の自治体に存在するということは起こらないようになっています。

参考:埼玉県 久喜市
転出入した場合、どこへ申告したらよいですか
お答えします今年分の個人市県民税の申告先は、賦課期日(毎年1月1日)現在お住まいの市区町村になります。したがって、来年の1月1日までに転出した場合は、転出先のお住まいの市区町村に申告し、来年の1月2日以降転出した場合は、転出前にお住まいの市区町村に申告します。(1月1日に転出した場合は、転出先に現住所があるものとされています。
しかしながら、海外への転出に際しては、転出元の自治体は海外の自治体への転入日を知る術がありません。そこで実際には提出された転出届にある転出予定日の日付でもって住民票を削除し、転出したという扱いにするようです。
理論的には、出国後にパスポートの出国印の提出を求めるなどして出国日を確認し、それで転出日を修正することは可能ですが、そのような運用は行われていません。

出国(予定日)当日に転出元自治体に住所があると見做すかどうかは、明確な規定がありません。所得税と同じ取扱をするのであれば出国日も住所があることになりますし、国内外の転出・転入と同じ取扱とするのであれば出国日には住所がないことになります。
日本を出国して海外に行く場合、殆どの場合は同日もしくは(日付変更線をまたいで)前日着となるため、個人的には出国日には日本の地方自治体には住所がなく、逆に海外の地方自治体に住所があるという扱いにするのが自然に思えます。

したがって12月31日までに出国すれば翌年の住民税支払いはなし、1月1日は曖昧、1月2日以降であれば住民税の支払いが必要です。なお住民税は1月1日時点で賦課が決まり、その年の6月から翌年5月にかけて支払うので、12月31日に出国しても1月〜5月分の支払いは行う必要があります。

2014年11月14日金曜日

スイス滞在資格 続き

日本人を含む非EU/EFTA国出身者がスイスの企業に派遣、あるいは直接雇用される場合には、受け入れ先の州政府からL滞在許可証、B滞在許可証、もしくはC滞在許可証を取得する必要があります。公的に決められている違いと、現実社会で遭遇する待遇の違いについて。

公式な話

L滞在許可(短期滞在許可)

雇用先がスポンサーとなって州当局に申請を行い、3ヶ月以上、1年以内の短期滞在が許可された場合に発行されます。更新回数に制限があり最長で2年まで延長可能。なおスポンサー企業と雇用関係がなくなった場合には滞在許可は取り消され、住居は雇用先と同一州に限られます。
配偶者、扶養対象の子どもにもL滞在許可が発行されます。ただし労働許可は本人に対するもののみで、配偶者が就労するには、別途スポンサーの支援を得た上で州当局に申請を行い、労働許可を取得する必要があります。

2014年現在、高度人材に対するL滞在許可の年間新規発行数は全国で5,000に制限されています。

B滞在許可(長期滞在許可)

雇用先がスポンサーとなって州当局に申請を行い、1年以上の長期滞在が許可された場合に発行されます。1年間有効で更新回数の制限なし。L滞在許可証と同様、スポンサー企業と雇用関係がなくなった場合には滞在許可は取り消され、住居は雇用先と同一州に限られます。
配偶者、扶養対象の子どもにもB滞在許可が発行され、配偶者も就労が許可されます。

L滞在許可と異なり、B滞在許可申請時には犯罪経歴も調査されます。日本在住者がスイスでB滞在許可を取る場合には、日本の警察当局から犯罪経歴証明書の発行を受け、それを州の移民局に提出することになります(参考: 警視庁 渡航証明の申請について

2014年現在、高度人材に対するL滞在許可の年間新規発行数は全国で3,500に制限されています。これにはL滞在許可からB滞在許可に切り替える数も含まれます。

C滞在許可(定住許可)

B滞在許可を取得して継続して10年間以上スイスに滞在した場合、もしくは継続して5年間以上滞在し、かつスイス社会に良く統合されていると認められた場合に発行されます。雇用先や住居の制限がなくなり、経済的にはスイス人と同等の権利が認められます。

非EU/EFTA国出身者がスイスの企業に派遣、もしくは雇用されて就労する目的で滞在許可を申請する場合、まずはL滞在許可が発行され、1年もしくは2年後にB滞在許可に切り替えるケースが多いようです。受け入れ側で特に欲しいと思った人材には、最初からB滞在許可を発行するケースもあります。

私が2011年にチューリッヒに赴任した際には、まず1年有効のL滞在許可が発行され、その有効期限(1年)が切れる1ヶ月ほど前に「B滞在許可に切り替えるので必要書類を持ってきてください」という手紙が送られてきました。ただし、元々1年間の海外赴任だったので、更新せずに帰国しましたけど。

実生活上の話

短期滞在で経済基盤がスイス外にある場合には、L滞在許可とB滞在許可の差は大きくありません。しかし経済基盤をスイスに移すとなると、L滞在許可では次のような場面で制約を受けます。
  • クレジットカードの発行を受けにくい
  • 家を借りにくい
  • 配偶者が職につけない
L滞在許可はあくまで短期滞在許可で、経済的には不安定だと判断されがちです。たとえ雇用契約に期限の定めがない正社員だったとしてもL滞在許可の延長が認められなかったりB滞在許可に切り替えられないリスクがあり、その場合には帰国する以外の選択肢はありません。
大家側としては、L滞在許可保持者に物件を貸した場合は賃貸契約が短期で解約となるリスクが相対的に高くなるため、複数の入居申し込みがあればB/C滞在許可保持者を優先するのは自然な発想です。

また配偶者が職につけないのも長期になると経済的にも影響が大きいですし、人間関係を築いていく上でも、仕事を通じて人と知り合う機会が制限されます。

移転します

移転先:  https://blog2.issei.org/